『The Fight for LA Schools』(2020)という映画を観た。
2019年に起きた、ロサンゼルスの教員
ストライキ(UTLAスト)を追ったドキュメンタリーだ。
世界中で話題になった教育運動らしい。
でも、私は今日まで知らなかった。
2019年1月、ロサンゼルスで起きたこと。
LA市の公立学校教師、約3万4000人がストライキをした。(分母は約3万5000~6000人)
ストライキの前、教師たちは市教育委員会と交渉を続けていた。しかし協議にならず、やむをえずストに踏み切ったという。
6日間にわたって学校はほぼ停止した。
教師たちの要求は、単なる給料アップではなかった。
主なポイントはこれだ。
・クラスの人数が多すぎる(40人近い)
・スクールナースやカウンセラーが不足している
・図書館司書がいない学校も多い
・学校予算が削減されている
・チャータースクール(民営的学校)が急増している
つまり、教育の民営化が公教育を壊している、という問題提起だった。
ストの結果、かなり大きな合意が実現した。
・クラス人数の削減
・看護師・カウンセラーの増員
・教員給与の引き上げ
・チャータースクール規制の議論
ロサンゼルスは広い。
ストに通うだけでも大変だし、生活もかかっている。
「たたかい」に疲れて離脱したいという声も出ていた。
それでも、ストは人数を維持して続いた。
なぜか。
先生たちは、歌い、踊り、湧いていた。
「私たちを敗北させる原因は、私たち自身」
「(人が)抜ければ抜けるほど長引く」
「教員が団結したら怖いものはない」
応援する親たちもたくさんいた。
そして、集まる場ではみんなでごはんを食べていた。
ごはん。
ごはんがあると、人はそこに居続けられる。
ストの中心にいた女性は、参加人数が大事だと考えていた。
数。
私はその発想がなかった。
ささやかでもデモができたら十分だと思っていたから。
でも、
数こそが変える力になる。
その実例を見せつけられた気がした。
中心となった女性は、けっして無敵不死のカリスマではない。
本当はたたかいたくないし、
楽しんでやっていると思われたいわけでもない。
でもやらないわけにはいかなかったのだろう。
公立民営学校って、一見よさそうだ。
アート教育を売りにしていたり、公立のしばりから解放されているようにも見える。
でも、2019年のストで教師たちはこう言っていた。
「学校は市場じゃない」
「教育は公共財だ」
具体的には、次のような問題がある。
① 公立学校の予算が減る
生徒がチャータースクールに移ると、その子の分の税金も一緒に移る。
すると、公立学校は生徒が減る。
しかし建物や維持費はそのままだ。
結果として、残った学校がどんどん苦しくなる。
② 教師の労働条件が悪化する
チャータースクールは
・労働組合がない
・契約が不安定
というケースが多い。
③ 選別が起きやすい
理論上は誰でも入れるが、実際には
・成績のよい子
・親が教育熱心
な家庭が集まりやすい。
その結果、公立学校に
・貧困家庭
・特別支援が必要な子
が集中してしまう。
④ 民間企業が参入する
一部では教育ビジネスになってしまっているケースもある。
このように、アメリカの公立民営学校は社会基盤を大きく揺るがしている。
では日本ではどうか。
アメリカほど露骨ではないが、似た流れが進んでいるらしい。
たとえば、公設民営学校。
自治体が学校を作るが、運営を民間団体に任せる仕組みだ。
例として、
広島叡智学園中学校・高等学校
奈良県立国際高等学校
などがある。
企業やNPO、大学が教育運営に関わっている。
さらに、日本では「学校法人制度改革」が進んでいる。
民間のノウハウを学校に取り入れるという名目で
・企業と学校の連携
・教員以外の人が授業
・学校経営への企業参加
などが広がっている。
そしてもう一つの大きな流れが、教育の市場化だ。
教育を「公共サービス」ではなく「市場(マーケット)」に近づける考え方である。
例えば
・学校選択制
・民間塾と学校の連携
・EdTech企業(IT技術を使った教育)の参入
・公立学校の外部委託
などが進んでいる。
こうした流れの中で、専門家は次のような問題を指摘している。
・学校格差が広がる
(人気校に人が集中し、不人気校が弱体化する)
・教育の目的が変わる可能性
本来の教育は、市民を育て、社会を支える人を育てることだ。
しかし市場化すると、「競争に勝つ人を育てる」方向になりがちだ。
・教員の専門性が弱くなる
企業や外部人材が入ることで、教員が「授業をする専門職」ではなく「運営される職員」になりかねない。
ロサンゼルスの教師たちはストの中でこう言っていた。
公教育は民主主義の中心だ。
そして、
民主主義は終わりのない会議。
ストをした先生たちは、民主主義を育てるために体を張ったのだと思う。
続編もあるという。
観る機会があるといいな。
公立学校民営化については、鈴木大裕さんの著作
『崩壊するアメリカの公教育』
『崩壊する日本の公教育』
に詳しい。
